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酒蔵の覆屋

2020年度日本建築家協会優秀建築選 (日本建築家協会)

 東北地方にある酒蔵の施設で瓶詰めされた日本酒製品を冷蔵貯蔵するための貯蔵庫棟である。本計画では、将来設置する既成の断熱パネルによる幅14m×奥行6m×高さ4.5mの冷蔵庫を外部環境から守るためのシェルター(覆屋)を作った。冷蔵庫内をー5℃まで下げて製品を管理するため、断熱パネル(硬質ポリウレタンフォーム75㎜)の外側表面は気候条件によって結露が生じ(例えば夏季の外気温35度の場合、断熱パネルの外側表面は31度になり、相対湿度70%で露点温度となり結露が生じる)建物の劣化につながる懸念があった。それへの対策として、断熱パネルの外側表面に接する空気が常に動けるよう断熱パネルの外側5面に通気層を確保できるようにしている。通気層の奥行きは通常よりもかなり大きい500〜600㎜あり、人が入れる幅を確保することで結露が生じた時に外周りを点検できるメンテナンススペースにもなっている。

 構造は、メンテナンススペースの障害になる大きな柱型を出さない工夫をしている。900㎜間隔に並べた3本の柱を3段の貫でつないだ幅一間のユニットを作り、それらの部材を全てスチール角パイプ75×75で構成することで凹凸のないフラットな構造ユニットとしている。これを900㎜空けて外周に並べて、同サイズのつなぎ材で連結していくことで籠のような繊細な構造体を形成した。溶融亜鉛メッキ加工された構造ユニットは工場製作され、現場ではユニット同士をボルト接合で緊結するだけなので、建て方は約半日で終了し短い工期にも対応できた。

 外装は、水平垂直方向に調整したモジュールに従い既成の工業製品を割りつけている。最下部は給気口としてファインフロアを、最上部は排気口としてアルミパンチングメタルを、それ以外は繊維強化セメント板をビス留めした。アルミパンチングメタルからの雨の吹込み防ぐために四周に奥行1200㎜の庇を出している。多雪地域であるため、最高70センチ程度の積雪を周囲に落とさないフラットな無落雪屋根を採用した。

 このように環境への丁寧な応答と現代の工業製品によって作られた貯蔵庫棟は「現代の蔵」と捉えることができる。伝統的な蔵は、その時代に手に入る材料でいかに収納物を環境から守り良い状態で保存するかを熟慮した結果、現れた姿である。そこに込められた人の知恵の表れが長い時間を掛けて風景となった。この貯蔵庫棟もそのような伝統的な蔵の風景に連なる「現代の蔵」として、ここで働く人々や街ゆく人々の生活の背景となることを意図している。

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