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酒蔵リノベーション オフィス

2019年度日本建築家協会優秀建築選 (日本建築家協会)

東日本大震災で被災した酒蔵のリノベーションである。敷地は、街道に面し、生産・販売等の各施設が複数棟建っている。東日本大震災後、被災した施設群は改修や建替を行いながら継続的に復旧整備を行ってきた。本計画は、敷地内にある震災後に耐震補強を行い倉庫として利用していた原料蔵の内部をオフィスにリノベーションする計画である。

 

◼︎4つの領域をつくる

 原料蔵の大きなボリュームの中に、社員の執務スペース、オープンな打合せスペース、可変性のある多目的なスペース、動線とユーティリティの主に4つのスペースが求められた。これらの機能を考慮して、3つの垂直面と1つの水平面を新たに設定し4つの領域を作った。各領域に求められる機能や環境に応じて、各面は視線、空気、光、熱、音等(=環境要素)を適度に交流させ、それぞれの領域に相応しい状態を作りだしている。各面は、環境要素の交流のさせ方を考慮して既成の工業製品(スチール、アルミ、繊維強化セメント板、ポリカボネート板等)を複数組み合わせて構成し、その結果として具体的な床・間仕切壁・手摺・建具となって現れている。

 

◼︎熱の循環をつくる

 また寒冷地であるため吹抜空間の暖房については特に配慮が求められたため、空間全体を熱を循環させる装置として考えている。吹抜上部の暖気をダクト経由で床下に運び、床下を通過させて家具幅木(ガラリ)と階段蹴上板(パンチング)から吹出して循環させている。床は熱容量が大きい厚い繊維強化セメント板を根太に直貼りすることで、暖気の熱を蓄熱し上部への輻射効果を図っている。

 

◼︎木構造体の下に場を設える

 原料蔵は、2015年にリノベーションで再生した店舗から奥に連なる軸線上に位置しているため、オフィスと店舗のつながりはより配慮する必要があった。既存の木造の軸組や小屋組を保存しながら、その下に工業製品による設えや構造壁を配置することで新たな場を作り街道から緩やかにつなげて街へ開かれた酒蔵空間を作り出している。

 

 リノベーションを行うにあたり、工業製品を割り付けるためのモジュール、工業製品の素地を生かした使用、設備機器や配管部材の露出を共通ルールとした。時を経て圧倒的な存在感を持つ既存の木構造体と明確なルールに基づいて空間に配置された工業製品による装置の併存が互いの存在を浮かび上がらせ、独特な空間の様相を生み出して新旧の時間をつなぎ、穏やかな生活の背景を作り出している。

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